ナパの「いいワイン」ならここ!Smith Madrone Vineyards & Winery
オーパスワン、スタグスリープ、ハーランエステートとか、パーカーポイントなどワイン格付けで満点続出の完璧なワインをつくるところがカリフォルニア州ナパヴァレーにはたくさんあります。これらのワイナリーから生産されるワインはどれも希少品。もはや飲み物というより芸術作品みたいなもので、世界中のファンの間でしばしば取り合いになるほど。そういったレアものワインは「カルトワイン」とも呼ばれます。1本5万円、いや数十万円を越えることも珍しくない高級ワインなんだから味が悪いはずがない。ワインを勉強している身としてはかなり興味がありますが、私は250ドルを越えるワインは飲んだことはありません。お財布にその余裕がないので、とりあえず今のところは庶民向きのワインを探します。
庶民向け、上質ワインを探すプロジェクトの一つとして見つけたこのワイナリー。新型コロナウイルスが世界各地にじわじわと広まりつつあった2020年2月。ナパヴァレーのセントヘレナ (St. Helena)へでかけました。「マスクをしてたらコロナだと勘違いされる」なんて言いながら空港を歩いていたのが懐かしい。今やアメリカではマスクをしていないと空港の施設に入れないので、たった一年で180度方向転換。その変わりっぷりがすごい。
セントヘレナは有名ワイナリーがあつまるカリフォルニアワインの天国。1本5ドルのワインから高級ラインまで幅広いラインナップで世界中に名前を知られるベリンジャー (Beringer) もその一つ。うちの近くのスーパーでも買える有名なブランドよりも、せっかくの機会なので小さいアルティザンワイナリーに行きたい!セントヘレナのダウンタウンから西方向に延びる1本の道をグーグルマップでたどっていくと、何やらこだわってそうなワイナリーを発見。地図やホームページでなんかよさそうな感じ、というだけのあてにできない私の勘で見つけた、スミスマドローンヴィンヤーズ&ワイナリー (Smith-Madrone Vineyards & Winery 以下スミスマドローンワイナリー) でしたが、結果的には大当たり!スミス兄弟と息子さんの二世代で地道にぶどうを育ててワインを醸造する素朴なワイナリーでした。
スミスマドローンワイナリーがあるのはマヤカママウンテン (Mayacama Mountains) というナパヴァレーとソノマを分ける山脈の中。正確にはその山脈の一つの山である、スプリングマウンテン (Spring Mountain) の急な斜面にあります。このエリアはSpring Mounatin Distrct AVA (American Viticultural Area) の政府が認定するぶどう栽培地域内に入っています。山脈と言っても標高は800m程度のスプリングマウンテンですが、ナパやセントヘレナのダウンタウンなどの低地と比べると、歴然と気候が違います。断然涼しく、またこのくらいの標高になるとぶどう畑はナパヴァレー特有の霧の上にあり、同じバラエティのぶどうでも、低地でつくられるものとは味わいもスタイルも異なるワインがつくられています。
そんなスプリングマウンテンの13ヘクタールの斜面にリースリング、シャルドネ、カベルネソーヴィニヨン、カベルネフランが育っています。山がちな地形でぶどうを栽培するのは難しいというのが一般的な考え方だった1970年代にこの土地を買った兄弟ですが、斜面の方角はもちろんぶどう品種の特徴をしっかりおさえてカベルネソーヴィニヨン、シャルドネ、リースリング、ピノノワールの栽培に成功。地形的に難しい環境がむしろ大量にぶどうができるのを防ぎ、生産量を下げたことで味が濃いぶどうを収穫することにつながったそうです。ぶどうの木にも負担が減り木やぶどうが病気になりにくく、結局はいいこと尽くしだったといいます。
北向きの斜面にはどんな気候にも合いやすいシャルドネを、南向きと強い太陽が当たる西向きの斜面には温暖でないと熟さないカベルネソーヴィニヨンを栽培。スミス兄弟がワイナリーをオープンしてから5年後の1977年が初めてのヴィンテージ(ぶどうを収穫した年)で、以来、生産量は全体で年間4,000箱(4,000×12本です)ほど。4,000箱というと、フランスの小さなシャトーなどで生産される数と同じくらい。かつては買い付けたぶどうも使ってワインをつくっていたそうですが、今では使われるぶどうはもちろんのこと、醸造からボトル詰めまですべてがスミスマドローンワイナリーで行われている、アルティザンワイナリーです。
そんなワイナリーでワインを片手にワイナリーと醸造所を見学できる一人$20のツアーに参加しました。大きなワイナリーだと、醸造場所見学+テイスティング、とかテイスティングのみとか、テイスティング+ペアリングフードとか、もう混乱するほどいろんなコースがあります。多くの場合、テイスティングもワイナリー経営の一つの柱。そういったワイナリーはテイスティングというよりむしろ、ワインを飲みに来る人のためのドリンクメニューをそろえているような感じすらしてしまいます。
そんな中スミスマドローンワイナリーはいたってシンプルで$20のテイスティングだけ。さらに最近のナパのワイナリーでは珍しくて、ワインを購入すればテイスティングフィーは無料にしてくれるって!こういうワイナリー、今どきのナパでは本当に少なく貴重な存在です。ワイナリーとヴィンヤードは兄弟の一人か、スミスさんファミリーの一人が案内してくれます。在庫のあるワインをテイスティングするので、何がどのくらいテイスティングできるかは当日のお楽しみ。基本はリースリング、シャルドネ、カベルネソーヴィニヨンで、私が訪問した時は運よくリザーブワインも試飲することができました。
2010年のヴィンテージから始まったCook's Flat Reserveはスミスマドローンワイナリーの最もよいぶどう畑から収穫したカベルネソーヴィニヨン、カベルネフラン、メルローをブレンドしたボルドースタイルのワイン。10か月ほど新しいフレンチオークの樽の中で寝かせたワインで、とっても複雑な味がしました。飲んだのは1本$225の2016年ヴィンテージ(現在も販売されています)で、どのヴィンテージも出荷されるのは約1,000本ほどという希少なワイン。スミスマドローンワイナリーのテイスティングツアーではこんな手間ひまかけた手作りのワインを味わえるチャンスもあります。
力が抜けた気楽な感じの兄弟でしたが、50年間にわたりとにかくおいしいワインを丁寧に作ってきたという自信にあふれていました。ぶどうの収穫から選別、アルコール発酵、熟成まですべて彼らの手作業で行われています。カルトワインみたいな華やかさはないかもしれませんが、小さなワイナリーで山でとれるぶどうを丁寧に熟成させ、量よりも質にこだわった「いいワイン」をつくっているワインメーカーです。リザーブワイン以外はどれも1本$30~$60程度。ちょっと特別な日のディナーに飲む、そんな贅沢なワインを見つけるならスミスマドローンワイナリーがおすすめです。
スプリングマウンテン周辺は2020年9月に起きたグラスファイアー (Glass Fire: 山火事) で大きな被害を受けました。スミスマドローンワイナリーもフェンスや水路、電線などが燃えてしまったとのこと。幸いなことに畑やワインを熟成させているワイナリーの建物自体には大きな被害はなかったようで、2020年ヴィンテージも醸造が進められています。2021年3月現在、スミスマドローンワイナリーは新型コロナウイルスの関係でテイスティングツアーは中止していますが、ワインはウェブサイトから購入が可能(一部のアメリカの州、また国際発送は不可のようです)です。
<このブログのワイナリー情報まとめ>
訪ねたワイナリー:Smith-Madrone Vineyards & Winery(スミスマドローン ヴィンヤーズ&ワイナリー:ナパヴァレーのアルティザンワイナリー)
このワイナリーがある場所の旅行情報:カリフォルニア州ナパヴァレー(ナパヴァレー観光情報:Visit Napa Valley)