Chateau Fontis Medoc 2016 Cru Bourgeois|シャトーフォンティス メドッククリュブルジョワ
ワイン名:シャトーフォンティス メドック 2016
生産国&地域:フランス/ ボルドー メドックDOC
ワイナリー:シャトーフォンティス
品種:カベルネソーヴィニヨン50%、メルロー50%
ヴィンテージ(収穫年):2016
値段:$16 (2021年)
購入場所:コストコ@San Bernardino
日本での購入可否:難しそう(日本にも卸しているという情報はあるものの、オンラインでは見つからず)
しばらく白ワインやプロセッコが続いていましたが、久々の赤ワインのテイスティング。
メドックAOC (Appellation d'Origine Contrôlée) はジロンド川の左岸のボルドーエリアの最北にあるワインの原産地です。メドックの南はオートメドックがあり、ボルドーを代表するワインの多くはこのあたりから生まれています。マルゴーAOCやポイヤックAOCなどもオートメドックの中に位置していて、高級で有名な格付けシャトーがたくさんあります。
高そうなイメージのボルドー(このページでは赤ワインを指します)も、アメリカでは7ドルとかで買えてしまうし、日本でもスーパーのプライベートブランドのラベルのついたボルドーが1,000円以下で売られています。7ドルボルドーもそれなりに美味しく飲めるし、私のような庶民でも十分楽しめる産地。ボルドーの高級シャトーのワインが年々高くなっていくのに反比例するように、激安のボルドーワインはどんどん売り場に増えているような気すらします。激安系ボルドーワインの多くは、ボルドー全域で生産されているボルドーAOCワイン。ボルドーから出荷されるワインの約50%以上を占めるといわれています。出荷後すぐに飲むことを目的にしたワインで、熟成させなくても酸味もタンニンも柔らかくて飲みやすいのが特徴です。
激安系も悪くないからこそ、もう少し予算を上げたボルドーはどんな味がするか気になりませんか?
ボルドーワインの選択肢は予算を2,000円まで上げるとぐっと広がる印象です。ワンランク上のボルドーを楽しむなら今日のワイン、シャトーフォンティスを含む、メドックAOCのワインがおすすめです。ボルドーAOCより厳しい品質基準があり、長期の熟成にも耐えられるフルボディの赤ワインがたくさん生産されています。ボルドーの格付けシャトーのほとんどは前出のオートメドックとグラーヴにあります。最低でも1本数百ドル以上の高値で取引される赤ワインの多くがオートメドックとグラーヴの出身。それに対してメドックAOCは、ボルドーのスーパースターには劣るけれども、AOCボルドーやボルドースペリオールAOC、コートデボルドーよりはずっと品質のいいワインがつくられています。こだわりをもったワイン造りをしているシャトーが多く、ラッキーな時にはお手頃なのに立体感がある掘り出し物的ボルドーワインに出会える、そんなエリアがメドックAOCです。
メドックAOCのワインは一般的にカベルネソーヴィニヨンとメルローが主体のワインです。カベルネソーヴィニヨンの割合が高い南のオートメドックと反対に、メルローの割合が高いのもこのエリアの特徴です。シャトーフォンティスの2016年はそれぞれ1:1で、フルボディよりほんの少しだけ口当たりが軽いのでミディアム+ボディ。18~20か月樽の中で熟成した上、2016年ということはすでに3年近く瓶で熟成されています。ぶどう由来のフレッシュな香りは消えつつあり、熟成由来のアロマ&フレーバーが強いワインです。全体的にしょっぱいというか、生のお肉のようなソルティな香りがしました。こってりした濃い味の豚肉や、ステーキと一緒に飲みたいね。
メドックAOCにも格付けがありますが、その前にオートメドックとソーテルヌのシャトーに与えられている格付けについて少し。制定された1855年からわずかに変更があっただけで更新や改定のないオートメドックとソーテルヌの格付け。制定されてから170年以上経った今、オーナーが変わったシャトーや生産のスタイルを変えたシャトーもあります。ぶどう畑のコンディションだって当時とは少なからず変わっているはずです。WSET Level3の教科書にも書かれているのですが、1855年の格付けが現在のそれぞれのシャトーでのワインづくりにそのまま反映されているかは疑問で、ボルドーの格付けはいつも議論を呼びます。
メドックAOCには1855年の格付けシャトーがないかわりに、2008年から始まったクリュブルジョワ (Cru Bourgeois) という、ワインに与えられる格付けがあります。シャトーではなく、それぞれのヴィンテージに対して与えられています。格付けシャトーのように、そこで生産されるすべてのワインが対象になるわけではないので、同じシャトーのワインでも生産される年によってクリュブルジョワとそうでないものがあるということ。気候、ぶどうの潜在的な質、収穫量など、ぶどうの生育具合は毎年異なります。2011年は品質がとてもいいとか、何年のヴィンテージはよくないとか、一年として全く同じワインをつくることはできないわけで、そのワインの多様性を反映させたメドックのクリュブルジョワのシステムはとても分かりやすいし、納得ができる。お手頃で格付けのルールもより身近だし、いいことづくしメドックAOC!メドックAOCのワインのうち約40%がこのクリュブルジョワが占めています。
しかし・・・
WSETで学んだクリュブルジョワ情報をもう一度きちんと整頓するべく調査をしたところ、2020年にそのルールが大幅に改定された模様。2018年の収穫分から(熟成などの時間を経て2020年の販売分から)、クリュブルジョワの概念が生まれた1932年当初のルールが復活し、5年ごとに更新されるシャトーへの格付けに変わったようです。さらに、ボルドー格付けのように細かく3つのカテゴリに分類されました。一番下から:
クリュブルジョワ (Cru Bourgeois)
クリュブルジョワ・スペリオール (Cru Bourgeois Supérieur)
クリュブルジョワ・エクセプショナル (Cru Bourgeois Exceptionnel)
までの3段階制に。2020年の改定後初のクリュブルジョワには249のシャトーが選ばれました。新しいクリュブルジョワには復活、脱落の可能性があるので、1855年のオートメドックの格付けよりは正確性が高いかもしれませんが、まさか過去のルールに逆戻りするなんて!
生産者が完璧なワインだと考えるヴィンテージをクリュブルジョワとして申請する以前の方法の方が、わかりやすいというか透明性があるように思うのは私だけ?去年のヴィンテージはクリュブルジョワだったから、今年もクリュブルジョワだと思って勘違いして買ってしまったというケースが多々あり買い手が混乱した、とかヴィンテージによって格付けが変わってリピーターがつきにくい、とかマーケティング的によくなかったようです。シャトーそのものに格付けがある方が端的にどういう品質のワインが生産されているのかわかりやすいですけども、なんだかなー。私が思っている以上に、人々はワインのラベルに出ている格付けやランクに基づいて買うかどうかを決めるということでしょうか。
このシャトーフォンティスは2016年のヴィンテージですので以前のクリュブルジョワのシステムの下で格付けされたもの。クリュブルジョワのワインにはヴィンテージとQRコードがついたステッカーが貼られています。偽物の流通を防ぐためのものと思われますが、いわゆる「生産者が見える」コードでもあります。これがなかなかおもしろくて、このコードからシャトー情報やぶどう品種、醸造方法までどのように作られたワインなのかがわかるのです。わざわざシャトーのホームページで調べるなんてめんどくさいけれど、このコードならそのワインがどう作られたか、端的にその情報が1ページにまとめられていてクイックでスマートな印象です。リンク先はhttps://www.crus-bourgeois.com/で、メドックAOC全体でワインの質を上げていこうとしているのがそのステッカーからわかった気がします。新しいクリュブルジョワのシステムの下でメドックAOCのワインがどうなっていくか、5年後のクリュブルジョワのリストがどう動くのか見守りたいと思います。